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大隅基礎科学創成財団が目指すもの

No.379/2018年11月号
東京工業大学栄誉教授 大隅 良典
東京工業大学栄誉教授
大隅 良典
昨年(2017年)の夏に大隅基礎科学創成財団を設立されましたが、何かきっかけがおありでしたか。
大隅:ノーベル生理学・医学賞受賞後に政府のいろいろな要人に会いました。皆さん、「基礎科学、基礎研究は大事だ」とおっしゃっては下さるのですが、「財政難」が政府支出の枕言葉になっているこの時代に、直接には票に結びつかない基礎科学の支援に力を入れてもらうのは、なかなか難しい。実際、地方大学の研究室では年間の研究費が10万円、15万円というケースも多々あります。ですから、国に頼るだけではなく、研究者自らも動く必要があるのではないかと。研究助成は財団の目的の1つです。
私自身はずっと国から研究費をもらって基礎研究を続けてきましたし、私と同世代の基礎の研究者はそういうものだと皆思ってきたと思います。『産学協同』には反対という立場がほとんどでしたし…。しかし、これも違うのではないか、企業や一般市民を含め、日本社会の基礎研究に対する認識を変えていく、基礎研究と社会の新しい関係を築き上げていくことが重要ではないかと思いました。そういう関係があってこそ、基礎研究は力を得られるのではないかと。これも財団の大きな目標です。
基礎研究と社会との関係について再考されたのは、なぜですか。
大隅:日本の基礎研究の最も深刻な問題、「博士課程への進学者が激減し、次世代の研究者が育たない」ということからです。その根は、日本社会の画一性にあるでしょう。同じような価値判断が求められ、失敗が許されないという風潮の中で、若い人たちは受験戦争の偏差値で自分を縛り、己を高く評価できない。師を見て「ああなりたい」ではなく、「ああなれない」と思ってしまう。いわれたことはきちんとやるが、チャレンジ精神には欠ける。本来、博士課程に進む人が修士課程どまりに、修士課程に進む人が学部どまりになっています。
これは、企業にとっても由々しきことで、日本の大学がきちんと研究できる人材を養成していないことになります。そこで、海外の優秀で、アグレッシブな人材の獲得に動く企業が非常に増えていますし、海外の大学に多くの資金を提供する企業も多い。その額の半分でも日本の大学に投資されたら、すごく変わるのではないかと思います。どこかに風穴を開けて、いろいろな才能や個性をもつ若い人たちが、生き生きと楽しく研究できる社会環境、研究環境をぜひつくり出したいと思っています。
画:クロイワ カズ
どのように風穴を開けようとしていらっしゃるのですか。
大隅:研究助成に関しては、基礎生物学の研究者仲間と一緒に、研究者目線で、「ぜひこの研究は行ってほしい」というものを発掘し、サポートしていこうとしています。先見性や独創性に優れた基礎研究、国などから助成がなされにくい基礎研究などが対象です。近年、若い研究者へのサポートが国の助成をはじめ盛んになっていますが、彼らの師である教授たちが生き生きしていないと、結局若い研究者も将来は暗いと思ってしまう。ですから、40、50代の研究者の発掘も行います。さらには、定年や任期切れで研究費が途絶えてしまう研究者たちにも、その研究がぜひとも続けてほしいものであれば、助成しようとしています。
第1期の2018年7月から2020年6月末までの原則2年間の研究の助成については、酵母を対象とした基礎研究をテーマとしました。56件の申請があり、4件が採用され、7月から助成金が交付されています。1件につき最大500万円程度の助成です。
基礎研究と社会の新たな関係を築くには、研究者と企業経営者との勉強会や交流会を開いており、率直な意見を交わしています。また、学生や一般市民向けの講演会やセミナーの開催はもちろんのこと、「小中高生と最先端研究者とのふれ合いの集い」も始まっています。大学生より高校生と、年少の人たちほどはつらつとしています。次世代を担う彼らに、科学の面白さ、楽しさ、醍醐味を知ってほしいと思っています。

※本企画は、当社の協賛で日経サイエンス誌に広告として掲載しているものであり、当社の研究開発、製品等と直接の関係はございません


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