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学術誌とオープンアクセス

No.380/2019年2月号
国立情報学研究所(NII)<br/>
情報社会相関研究系准教授 船守 美穂
国立情報学研究所(NII)
情報社会相関研究系准教授
船守 美穂
学術誌を巡る論議がかまびすしいようです。何が起こっているのですか。
船守:学術誌の値段がここ30年の間に5 ~6倍になったため、研究者が論文にアクセスできないという事態が起きています。商業出版のものだけでなく、学会系の学術誌も同様に値上がりしています。そして学術誌が電子化し、問題がさらに深刻になりました。
インターネットを通じて学術誌を閲覧するようになり、ある出版社の学術誌全てへのアクセス権を得るというパッケージ契約が主流となりました。例えば、ある出版社では約2000種の学術誌すべてにアクセスできます。たいへん便利ですが、これが年5%前後で値上がりするため、予算が一定だと、どこかで購入できなくなります。パッケージ契約を諦めると、価格が上がっているため、冊子体を購入していた時代以上に購読できる学術誌の数が減り、それが毎年目減りする悪循環に陥ります。
なぜ上がっていくのですか。
船守:出版社側は発展途上国などからの投稿や利用が増えたこと、電子版のプラットフォームの機能強化に費用がかかることなどを理由として挙げています。しかし、学術論文は研究者が無償で執筆していますし、その品質保証のための査読や編集も研究者がボランティアで行っています。
冊子体の時代であれば、論文をレイアウトし、印刷し、流通させ、販売しなくてはならないので、出版社の役割は大きかったのですが、電子版ではこれが大きく省力化されます。結局、いくつかの出版社が寡占し、競争原理が働かない市場であることが大きいと言われています。
画:クロイワ カズ
世界はこの問題にどのようにアプローチしていますか。
船守:2002年にブダペスト・オープンアクセス・イニシアティブという会議が開かれ、論文をインターネット上でオープンアクセス(OA)にすることで解決を図ることが確認されました。またOAの方法としては、1)論文の著者最終稿をオンラインのデータベース(機関リポジトリなど)で公開するか、2)OA学術誌を新たに創設する方法が示されました。OA学術誌では論文著者が投稿費用という形で公開のための経費を負担します。このようにして現在、論文の約半数がOAで読めると言われています。
他方、この影で問題が生じました。従来からある権威ある学術誌は一般にはOAではないのですが、著者が追加料を払うとその論文だけOAにするというハイブリッド雑誌が出てきました。こうしてOAとなった論文には、購読料とOAのための追加料がかかります。
対策はどうなっていますか。
船守:結局、論文を少しずつOAにしてきたためこのような問題が起きたという理解のもと、全ての論文を一気にOAにしようという呼びかけを独マックス・プランク研究所がしました(OA2020)。
どのようにするかと言うと、世界の主要国・主要学術機関が出版社とOAへの移行契約を結ぶのです。自機関の研究者が出版する論文は全てOA出版することを契約に盛り込みます。大手商用出版社の一部は、これに向けて前向きに検討を始めています。
他のアクターの動きはありますか。
船守:研究助成機関も解決に乗り出しています。2018年9月に英仏を含む欧州の11の研究助成機関が、助成した研究からのすべての研究成果について2020年以降、「出版と同時のOAを求める。その費用は助成機関が負担する。ハイブリッド誌は認めない」という宣言をしました。そして12月、中国もこれに賛同することが明らかとなりました。
このようにOA雑誌への潮流が世界で強まっています。しかしこの場合、論文著者が負担する20 ~ 30万円の論文投稿料が重荷になります。日本の研究者の約6割の年間研究費は50万円以下です。日本においても論文投稿料を機関補助する仕組みを早急に整備しないと、日本の論文生産数が激減する恐れがあります。

※本企画は、当社の協賛で日経サイエンス誌に広告として掲載しているものであり、当社の研究開発、製品等と直接の関係はございません


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