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量子科学技術で切り拓く「がん死ゼロ健康長寿社会」と「量子生命科学」

No.381/2019年5月号
量子科学技術研究開発機構(QST)<br/>
理事長 平野 俊夫
量子科学技術研究開発機構(QST)
理事長
平野 俊夫
QSTが創立されて今年4月で3年になりますが、初代理事長としてどのような指針で運営されてきたのでしょうか。
平野:QSTは、放射線医学総合研究所(放医研)と日本原子力研究開発機構の量子ビーム部門と核融合部門が再編統合されてできた組織です。放医研は世界に先駆けて重粒子線がん治療装置を開発し、がんの治療に画期的な道をもたらしました。また、核融合は究極のエネルギー源といわれています。現在、日、欧、露、米、韓、中、印の7つの国と地域が共同でフランスにITER(国際熱核融合実験炉)を建設中で、QSTは日本の国内実施機関です。量子ビーム部門では量子ビームを使った先端的な材料開発や、レーザーなど量子ビームそのものの研究も行われています。一見、研究対象も出口もバラバラに見えますが、根底にあるのは量子科学技術です。私たちは「量子科学技術による調和ある多様性の創造」をモットーにしています。
モットーの具体的な例がありますか。
平野:1つは「量子メス(QuantumScalpel)」と名付けた次世代重粒子線がん治療装置の研究開発で、各分野の量子科学技術を結集して取り組んでいます。
現在、日本では、6カ所で重粒子線がん治療装置が稼働しており、7カ所目が建設中です。重粒子線がん治療には2つの大きな特徴があります。1つは手術など他の治療法では困難ながんでも有効な治療法になりうることです。頭頸部がんや骨軟部肉腫などです。もう1つは、短期治療が可能なことです。例えば初期の肺がん(1期非小細胞肺がん)なら、現在では1回の照射で治療できます。ですから、働きながらの治療が可能で、かつ生活の質(QOL)を保てます。しかし、装置が巨大で、高価なのが難点です。最初の施設は120m×65m、最新のものでも60m×45mです。そこでレーザーによる粒子加速や超伝導磁石など、私たちの持つ最先端の量子科学技術を駆使して10m×20mにまで小型化したいと思っています。これなら既存の病院建屋に置けます。また同時に、炭素イオンだけでなく、酸素イオンやヘリウムイオンなどのマルチイオン照射による高性能化も進めています。
感染症の治療では、抗生剤で菌を叩いて、最終的には免疫機能で完治させます。量子メスは、感染症治療における抗生剤のように、免疫が機能するための環境を整えるという重要な役割もあります。量子メスに標的アイソトープ治療や免疫治療などを組み合わすことにより、「がん死ゼロ健康長寿社会」を実現できると思います。
画:クロイワ カズ
それは素晴らしいですね。他にも量子科学技術がもたらすものがありますか。
平野:新しい生命科学の分野、「量子生命科学」が拓かれると思っています。20世紀は分子生物学が台頭し、花開いた時代でした。今でも、分子生物学は大きな成果を出し続けていますが、例えば、生命体と非生命体との違いは何かという根源的な答えは、分子生物学の延長線上にはないと思います。
量子生命科学を示唆する一例がヨーロッパコマドリの渡りの仕組みです。この鳥は地磁気を感知して渡りを行うことが40年以上前に実験的に明らかにされましたが、その感知に量子もつれが関わっているという実験的な証拠についての論文が2004年に「ネイチャー」に掲載され、大きな反響を引き起こしました。においや意識、光合成などにも量子現象が関わっているのではないかと考えられています。
生命体での量子現象を探るには、量子力学の観点や新しい手法が必要です。QSTでは、非常に高感度なナノ量子センサーなどの技術を用いて、細胞1個中の電位や磁場の測定などにチャレンジしています。
QSTは、2017年に量子生命科学研究会を立ち上げ、また量子生命科学をテーマにした国際シンポジウムを開催しました。今年4月には、研究会を改組して一般社団法人量子生命科学会を発足させます。そして国内外の研究者が集う量子生命科学の拠点となる「量子生命科学領域」をQSTに設置します。11月には量子生命科学をテーマにした国際シンポジウムを再び開催します。量子生命科学は、第二次量子革命の重要な分野であり、多様な量子科学技術を調和させ、発展させる恰好の舞台なのです。

※本企画は、当社の協賛で日経サイエンス誌に広告として掲載しているものであり、当社の研究開発、製品等と直接の関係はございません


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