MENU

磁性細菌がつくり出すナノ磁石

No.383/2019年11月号
国立研究開発法人<br/>
海洋研究開発機構理事長 松永 是
国立研究開発法人
海洋研究開発機構理事長
松永 是
磁性細菌はどのようなものですか?
松永:水中の鉄イオンを細胞表面から取り入れ、自らナノ磁石をつくっている菌です。菌体の表面近くに、50~100ナノメートルの大きさの磁石が10個から20個ほど数珠のようにつながった構造をもっています。例えば「?」の形の磁石を、培地の入ったシャーレの下に置くと、磁性細菌が集まってきて、「?」の形に浮かびあがります。1970年代に米国の研究者がボストン近郊の塩湖で見つけたのですが、現在では世界中の川や池や海などに分布していることが明らかになっており、いろいろな種類が見つかっています。
磁性細菌は何のために磁石をつくっているのですか?
松永:磁性細菌は嫌気性で空気を嫌い、川や池や海などの酸素の少ない底の泥の中にいます。でも流れの変化や大雨による氾濫などでしばしば水面に向かって巻き上げられてしまう。この時、地磁気を感知して北半球では北の方向に鞭毛を動かして向かっていけば、底の泥に素早く戻れます。地磁気は地面と平行ではなく、北半球では斜め下方向になっているからです。
磁性細菌との関わりは、いつ頃からなのでしょうか。
松永:1980年代の初め、米国のマイアミ大学にいた頃からです。82年に東京農工大学に移ってからは培養に打ち込みました。でも培養に適した酸素に強い菌を見つけ出し、きちんと培養できるようになったのは90年代に入ってからです。世界初の成果ですが、10年近くかかりました。
培養できるようになると、研究がぐんと進みます。その後約10年で全ゲノムを解読し、約100個の遺伝子が磁石の生成に関わっていることを明らかにしました。これも世界初の成果でした。
細胞表面から水溶性の高いFe 2+という形で鉄イオンを取り込んでマグネタイト(Fe 3O 4)をつくるのですが、入ってきた鉄イオンは、細胞膜を陥入させてつくる小胞の中にため込まれ、この中で磁石として結晶成長していきます。また、菌体内にはレールのような形をしたタンパク質が端から端まで伸びており、この上に小胞を並ばせる仕組みになっています。それで、数珠のような構造になるのです。2000年代には、100個の遺伝子がこのようなメカニズムのどこに関連しているのかを解き明かす競争が日米独を中心に展開されました。小胞の形成と磁石の結晶成長に関しては私たちが、小胞の配列については米と独のグループが名乗りをあげることになりました。
ナノ磁石の応用も考えられるのではないかと思いますが…。
松永:応用も視野に入れて研究してきました。磁性細菌がつくるナノ磁石は脂質二重膜で覆われているのでタンパク質などを表面に付けやすいのです。薬や抗体や酵素を付けて磁石で誘導し、ピンポイントでデリバリーを行うシステムなどが考えられます。私たちは、遺伝子組み換えによって、磁性細菌自らが、ナノ磁石の表面に抗体や酵素を産生する技術を開発し、特許を取ったりしています。また、ナノ磁石に蛍光タンパク質を付けて目的とする遺伝子だけを集めるという手法を使い、全自動遺伝子検出装置の開発にも携わっています。
画:クロイワ カズ
現在は応用研究が主なのでしょうか。
松永:基礎も調べれば調べるほど、さらに疑問が深まるところがいろいろあります。私が最も興味をもっているのは、「タンパク質が、どのようにして、磁石の結晶成長を制御しているのか」です。ナノ磁石生成の遺伝子が完全に揃っていると、ナノ磁石は切頂八面体になります。遺伝子が少し欠けていると柱状になります。もっと欠けていくと、だんだん形の制御ができなくなります。ナノ磁石の脂質二重膜の表面にグルタミン酸やアスパラギン酸などの酸性アミノ酸がついて結晶の形を制御していることがわかってきています。アミノ酸の種類や付き方によって、結晶の形が変わるのです。
無機物の産生をタンパク質が制御する、これは将来、無機物生産の新しい手法になるのではないかと、思っているのです。

※本企画は、当社の協賛で日経サイエンス誌に広告として掲載しているものであり、当社の研究開発、製品等と直接の関係はございません


この頁についてのお問い合わせは下記まで