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材料を原子レベルで解析し、理想の磁石をつくる

No.384/2020年2月号
物質・材料研究機構理事<br/>
磁性・スピントロニクス材料研究拠点長 宝野 和博
物質・材料研究機構理事
磁性・スピントロニクス材料研究拠点長
宝野 和博
強力な磁石の研究開発では、世界のトップを走っていらっしゃいますね。
宝野:一般に最強の磁石といわれているのは、鉄-ネオジム-ホウ素合金に代表されるネオジム磁石で佐川眞人さんの発明です。小型軽量モーターは電気自動車やロボットなどの分野でも求められており、それに対応するにはさらなる磁石の高性能化が必要です。発明当初のネオジム磁石は耐熱性が弱かったのですが、佐川さんは、ネオジムの一部をジスプロシウムに換えて耐熱性をもたせることにより電気自動車に使えるようになりました。
ところが、ジスプロシウムはレアアースの中でも特に埋蔵量が限られた希少元素で、磁性の源である電子のスピンの向きが鉄やネオジムと反対なので、磁力も低下させてしまいます。佐川さんとそんな話をしているうちに、「一緒に研究して、ジスプロシウムの添加量を減らしましょう」ということになりました。
どのように減らそうとなさったのですか。
宝野:私たちの研究グループの強みは、3次元アトムプローブや電子顕微鏡などの観測・分析機器を使って、磁性材料のナノレベルの構造や組成を、原子1個1個まで調べることができることです。磁石の耐熱性や磁力は、結晶粒界といわれる結晶と結晶の間の組成や構造に左右されます。私たちのグループはこれを原子レベルで見て、解析することができます。
ネオジム磁石を調べたところ、今まで結晶粒界は磁性をもっていないとされていましたが、実は強磁性であることが分かりました。つまり、結晶同士は磁気的に繋がっていたのです。これを分断すれば保磁力は上がります。保磁力は熱処理で変化するので、いろいろな熱処理をしたネオジム磁石を徹底的に解析しました。その結果、粒界にネオジムが多く含まれる領域ができると高い保磁力を示すことが明らかになりました。また、そのような粒界相の形成には、銅が重要な役割を果たしていることも分かりました。そこで、ネオジム-銅合金を粒界に浸透させるという方法を使って、高い特性を持たせることができるようになりました。
永久磁石に興味を持たれたきっかけというのが何かありますか?
宝野:永久磁石研究を主な研究対象とするようになったのは、ここ15年ほどです。
大学院からアトムプローブの発祥の地であるペンシルベニア州立大学に留学する機会がありました。アルミニウム合金を対象にアトムプローブによる原子の集合体の解析を行っていました。磁性材料の研究を始めたのはカーネギーメロン大でポスドクとしてのテーマにハードディスク用磁性薄膜の構造解析に取り組んだときです。帰国して東北大学の金属材料研究所でアトムプローブを立ち上げ、最初に取り組んだ材料が、偶々学界誌で目にしたナノ結晶軟磁性材料の解析です。これをアトムプローブで解析し、国際会議の「インターマグ(IEEE Intermag)」に講演発表を申し込んだら、招待講演に格上げされたのです。これが転機となり、磁性材料研究を続けることになりました。
2006年にJST-CRESTのプロジェクトで「レーザー3次元アトムプローブの開発」に取り組み、電圧パルスではなくレ-ザーで試料をイオン化する手法を開発しました。これで、これまで限られた材料にしか使えなかった3次元アトムプローブがさまざまな材料解析に応用できるようになりました。こうしてネオジム磁石のアトムプローブによる原子レベル解析が自由にできるようになりました。その頃に佐川さんに出会ったのです。
画:クロイワ カズ
今後はどのような磁石を開発したいと思っていらっしゃいますか。
宝野:磁石の保磁力と残留磁化はトレードオフの関係にあり、保磁力と磁化の両方が高い磁石は実現されていないので、これにチャレンジしていきたいと考えています。

※本企画は、当社の協賛で日経サイエンス誌に広告として掲載しているものであり、当社の研究開発、製品等と直接の関係はございません


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