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ミリ波が描く通信の将来像

No.385/2020年5月号
東京工業大学工学院<br/>
電気電子系教授 岡田 健一
東京工業大学工学院
電気電子系教授
岡田 健一
ミリ波通信で世界のトップを走られていますが、第5世代移動通信システム、いわゆる5Gの中心はミリ波だといわれていますね。
岡田: 現状の携帯電話で使っているのは2GHzの周波数で、CPUのクロック周波数と同じくらいです。このあたりの周波数帯は携帯やテレビ、Wi-Fi各社がすでに使っており、飽和の状態です。一方、通信の高速化にはチャンネル数を増やして多重通信を行う必要があり、帯域を広げなければなりません。より周波数の高いミリ波の領域、30~300GHzを扱うしか手だてがないのです。
現在の10倍以上周波数の高いミリ波を扱うための課題は何でしょうか?
岡田: 現在のCPUは、頑張っても5GHzのクロック周波数です。こういう状況の中で、高価な高周波専用のデバイスではなく、いかにして一般的な集積回路でミリ波を扱うかが、技術的なポイントになります。私たちも現在そこを頑張って、世界最速のミリ波通信を実現しています。一般的なCMOSは、高周波特性が良くありませんが、そのレイアウトを変えていくことにより高周波動作を実現していきます。この方法だと、製造プロセスを変えなくても高周波を扱えるCMOSを生産できます。ミリ波を現実のものとするには、簡便で安価な方法の確立が必要不可欠です。
どんなレイアウトがミリ波をどの程度増幅するかなどの追究には、回路の特性を測定しなければなりません。極小回路なので、針を使って測定しますが、極小ゆえに、測定結果が針の特性なのか、針と繋いだケーブルの特性なのか、針の先の回路の特性なのか、区別がつかなくなります。そのため、測定法やデータ解析の研究開発にも注力しています。
5G世界とは、どのようなものなのでしょうか。
岡田: 無線通信はより高速に、より大量のデータを扱えるようになり、より便利になります。その結果、ユーザーは通信していることをほとんど意識しなくなるでしょう。携帯のダウンロードにしても、今は時間がかかりますが、5Gでは一瞬にして行われ、通信によって得たのか、元々携帯の中にあったものなのかの区別がつかなくなります。テレビ会議なども遅延がないので臨場感があり、遠隔会議だということを意識しなくなるでしょう。そういった感覚の世界だと思います。今、私たちの研究室でデスクトップPCを使って追求していることも、ほとんど携帯でできてしまうでしょうね。ただ、5Gの技術が完璧に使いこなせるようになるには、10年ほどかかるでしょう。
画:クロイワ カズ
10年後というのは6Gの入り口くらいですか。6Gを見据えての研究も始めていらっしゃいますか。
岡田: 先を見据えて力を入れているのは、衛星通信です。従来の衛星通信は、上空3万6,000kmの静止軌道の衛星を使ったもので、いつも同じ位置にいて通信は楽ですが、遠いので遅延が生じます。今、脚光を浴びているのはもっと低い、地上1,000km程度の高度に、安価な小型衛星を多数打上げてネットワーク化する「衛星コンステレーション」です。
無線通信の研究開発には、高速化、遅延の解消、消費電力の低下、どこでも繋がるなどの目的があります。低軌道の衛星通信は、遅延の解消とともに、極地方でも海上でも、地球上なら、どこでも繋がるシステムを年間約1,000億円ほどのランニングコストで実現できるといわれています。日本では全国で携帯が使えますが、これは光ファイバーのインフラがあるからで、この整備には約10兆円かかっています。衛星コンステレーションには、英国のOneWeb、米国のSpaceX、日本のソフトバンクなどの企業が、すでに取り組んでいます。
私たちは、ミリ波での低軌道衛星通信を実現しようとしています。低軌道では1つの衛星が同じ位置にいるわけではないので、追尾が必要です。フェーズドアレイというアンテナを多数並べたものを地上側にも衛星側にも設置します。これを使えば、ミリ波をどの方向にも送れるので、複数の衛星を追尾できるミリ波通信が実現できます。この技術が駆使できて社会や日々の生活に浸透するのは、7Gくらいかもしれません。

※本企画は、当社の協賛で日経サイエンス誌に広告として掲載しているものであり、当社の研究開発、製品等と直接の関係はございません


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