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交差点で突然「あの人」が話しかけてきた話 - U.S.A. -

No.400/2011.04
電子情報材料ビジネスユニット/ 小林 紀史
画:クロイワ カズ

2007年の秋口だったと思います。当時、私はニューヨークに駐在していました。その日、マンハッタンのオフィスで残業して遅くなり、タクシーで帰ることにしました。5分も走ったでしょうか。赤信号で停車したとき、前方で20人ほどの集団がこちらに向かって何やら叫んでいます。スーツ姿の男を先頭に、カメラマンやボディーガードのようなムキムキマンたち。何事かと見ていると、彼らはこちらに近づいてきます。

スーツ姿の男が窓を開けるように合図して、車の中を覗き込んできました。アッ! この顔は、確か、ビル・クリントン!運転手と少しの間言葉を交わすと、足早に別のタクシーの方に去っていきました。運転手はものすごくエキサイトしています。

「あれは、ひょっとしてビル・クリントン?」恐る恐る尋ねました。

「イエッ・サー。ヒラリーを宜しくって言ったんだよ」

時まさに、大統領予備選で、オバマとヒラリー・クリントンが民主党統一候補の座を争っていました。ビル・クリントンは地元ニューヨークでの妻の必勝を期し、街頭でタクシー運転手に声をかけ、ヒラリーの応援をしていたというわけです。

「カメラマンが大勢いたから、きっと明日の新聞に載るぜ」と、運転手は未だ興奮気味です。

家に帰ると真っ先に妻に話しました。が、あまり驚いた風でもないのがチョー不満。明日、新聞写真を見せてビックリさせてやろうと心に決めました。

翌朝、早起きして近くのキオスクで手当たり次第に新聞を買い込み、妻と手分けして探しますが、何処にも載っていません。「人違いじゃないの」と妻が言い出す始末。会社でも自慢してやろうと思ったのに、口惜しい!