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必死の逃亡で度胸がついた話 - INDIA -

No.405/2011.09
建設資材カンパニー/ 原田 晋作
画:クロイワ カズ

昨年10月、ニューデリーで行われた国際学会で講演をすることになりました。英語での講演は初めて。入念に準備をしたものの緊張が先に立ちます。

当日の朝、気分を落ち着かせようと散歩にでかけました。地図を片手に街の中心地、コンノート広場まで歩きました。何となくイメージよりも殺風景。広場の下は地下鉄の駅です。そちらに下りてみました。人ごみの間から地下鉄の路線図が目に入りました。駅名を憶えようと、ポケットからデジカメを出してパチリ。その途端、1人の男が何か叫んでこちらに向かってきます。警官のようです。マズイことになる、と直感しました。インドでは写真は要注意と聞いたのを瞬間的に思い出したのです。身分証も何も持っていません。面倒なことになると午後の講演に間に合わなくなる! とっさの判断で逃げ出しました。

一段抜きで階段を駆け上がり、広場へ。広場からは放射状にたくさんの道路が出ています。どの道を来たのか見当がつきません。これと思しき道路を一目散。後を振り返る余裕もなく、人ごみを掻き分けて走りました。突然ピーポーの音。驚いて横路に入ると、人通りは殆どなく、数匹の大きな犬がウロウロ。走ると飛びかかってきそうで、今度は忍び足。強そうな犬と目で闘いながら、漸く次の大通りに出ました。後からは誰も追ってきませんが、自分が何処に居るのか、完全に迷子。

どのくらい歩いたのか、人に道を尋ねながら何とかホテルにたどり着きました。靴を脱ぎ、ベッドに寝転がってやっと一息。すると、脱いだ靴からプーンと臭いが… 先ほどの犬たちのウンチを踏んづけたようですが、今ややすらぎの香りです。

この騒ぎですっかり度胸がついたのでしょう。午後からの講演は緊張もなく、我ながらバッチリでした。