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北の島で思わぬ演奏会を楽しんだ話 - CANADA -

No.424/2013.04
宇部興産機械(株)/ 西尾 征信
画:クロイワ カズ

5年前、米国・ミシガンの子会社に駐在していたときの話です。10月の初め、米人社員のキースと2人で、カナダのケープ・ブレトン島にあるノース・シドニーという町に出張しました。ここは東海岸のセント・ローレンス湾に浮ぶ島。「赤毛のアン」で有名なプリンス・エドワード島の隣にあります。島の面積は四国の約半分、住民の大半はスコットランド系で、今もスコットランドの文化が色濃く残っています。

仕事が早く終わったので、夕刻、海岸に出てみました。

紺碧の海は大西洋。北緯46度は北海道の最北端に当たります。海岸には数軒のパブが軒を並べ、その中の1つに「キースの店」というのがありました。同行のキースが自分と同名の店に興味を示し、入ってみることに。

思ったより広い店内には、未だ時間が早いのか殆ど客はいません。キースが自分の名前を名乗ると、店主のキースは喜んで、記念にとジョッキーを2つくれました。

「今夜、近所の人たちがバイオリンを弾くので、ゆっくりして行きなさい」

店主の勧めで夕食をとることにしました。程なく、10人ほどの町の楽団がやってきて演奏を始めます。大半がバイオリンですが、とても素人とは思えない美しい音色。それが合図だったかのように、30人ほどの老若男女が次々と現われました。演奏が終わるごとに拍手喝采。とても賑やかです。スコットランド民謡でしょうか、聞き覚えのあるメロディも流れました。

やがて、客たちは席を立つと、演奏に合わせてフォークダンスを始めました。同行のキースも興に乗って一緒に踊ります。窓の外では、満天の空に輝く星。月明かりに青く光る海原。秋の夜長、パブの演奏会は果てしなく続きます。