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突然我が家が売りに出された話 - U.S.A. -

No.438/2014.06
医薬事業部 医薬品営業部/ 斎藤 記庸
画:クロイワ カズ

2008年の春。コロラド州デンバーの研究所に勤務していた時のことです。前年のリーマン・ショックから全米は不況の真っ只中。住宅街のあちらこちらで「売り家」の標識が目につきます。

ある日の夕方、研究所から戻り、車をガレージに入れて玄関の前まで来ると、そこに「フォー・セール(売り出し中)」の看板が… 。じぇじぇじぇ!  とはこのことです。とっさに家を間違えたのかと錯覚しました。

この家のオーナーは人のいい韓国人女性。お嬢さんは次女の通っている補習校の同級生で、日頃から親しくお付き合いしています。ご自身は美容院を経営する傍ら、何軒かの貸家も保有していて、韓国人社会では成功者の1人。早速、電話して事情を確認しました。

彼女の説明では、銀行からの融資で不動産経営を手広くやってきたが、リーマン・ショックで不動産が暴落。担保価値も激減して、このままでは借金も返せない。仕方なく優良物件から売りに出している。お宅とは契約が2ヵ月残っているので、それまでに何とか転居してくれないか、とのこと。

突然言われても、こちらにも色々と事情があります。隣に住む弁護士のマーク氏に相談してみました。彼の意見は法律家らしく、「借家人には居住権がある。何も瑕疵がないのなら立ち退く必要はない」と正論を主張します。とはいえ、親しくしている方との法律論争は本意ではありません。止む無く転居することにしました。

新しい家は米人のオーナーですが、至ってルーズ。不具合箇所の修理をお願いしても返事だけはいいのですが、実行がともないません。一家で夕食を囲むと誰からともなく呟きがでるようになりました。

「前の家は良かったね…」