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ブラジルで出会った親切 - BRAZIL -

No.451/2015.07
ウベ・ラテンアメリカ/ 金剛 仙太郎
画:クロイワ カズ

単身ブラジルに渡り、現地で結婚(妻は中国系マレーシア人)。生活にも慣れてきたので、妻の紹介がてら里帰りすることにしました。一昨年のことです。

70前の母は、父が他界してからは一人暮らし。これまで海外旅行の経験もありません。せめてもの親孝行にと、この機会に母のブラジル旅行を提案しました。実家に帰ると母は大喜び。仏壇にはパスポートが…。

埼玉の実家からサンパウロまでは24時間以上かかります。道中、母と妻は片言の日本語と英語で何とか意思疎通できるようになり、こちらでは、平日の観光は妻に任せました。滞在も終わりに近づいた最後の休日、3人でイグアスの滝に行くことになりました。場所はアルゼンチンとの国境ですが飛行機なら2時間足らず。

世界三大瀑布に挙げられる雄姿は素晴らしいものでした。凄まじい水の迫力と周囲を飛び交う美しい蝶に母もすっかり興奮気味。その感動を少しでも持ち帰ろうと、紙袋いっぱいにお土産を買いこみ、サンパウロに帰ってきました。自宅に着いて、お茶を飲みながら想い出話に興じている時、突然、母が大声を上げました。

「あっ、お土産を飛行機に忘れてきた!」

一同顔面蒼白、母の落胆ぶりは気の毒なほど—。妻と手分けして空港の案内に問い合わせますが、いい返事はありません。仕方なく近くのマーケットでお土産になるものを少し買いそろえました。

帰国の日、空港まで見送りに来て、ふと目にした航空会社の遺失物センターを念のため覗いてみました。事情を説明して、ダメモトで待っていると、「これですか」と差し出されたのは、あの大きな紙袋!

こんな嬉しいことはありません。母の最高の土産話になったことでしょう。